いのちが育まれるとき Q&A
第2章 こんなこと知りたい(医学の事他)
子どもが正しく発達しているか知りたいのですが、何を目安にすればよいでしょうか。

A1. 子どもの発達の見かた

すでに何人かの子どもがいる場合、上の子に比べて遅いようだと思ったり、いっしょに暮らしているおばあちゃんなどから「ちょっと発達が遅いのでは」と心配されたり、同じ年齢の子を見て遅れを感じたり—そうした小さなきっかけで、お子さんの発達について不安を持たれる方が多いようです。特にハイハイ、一人歩き、言葉の出かたなどが、心配の対象となっています。

育児書を見てますます不安になった経験もあるでしょうが、育児書に書かれている発達の目安はかなりおおざっぱなものです。近くにいっしょに遊べる同年代の友達を持つことも、発達を見極める一つの手段ですが、個人差がかなり大きいことをまず念頭に置いてください。

たとえば小学校にあがった場合、誕生に1年もの差がある子どもたちが同じ学年として扱われるのです。歩き始めが数カ月遅れたくらいですぐに心配する必要はありません。一般に正常児の歩き始めの範囲は、10ヵ月から18ヵ月とされます。もし、1歳半になってもまだ歩行しない場合には、保健所や小児科を受診してください。

言葉についてはもっと差があります。特に男の子は女の子に比べて言葉の出るのが遅いのが普通です。言葉数は少なくても、同世代の子どもと対等にけんかをし、遊べていれば、多くの場合問題はありません。言葉の目的はコミュニケーションをとることですから、その目的を達成していれば、全体的な発達は保たれていると言えるからです。初めて一語文を話すのは9ヵ月〜15ヵ月とされ、かなり幅があります。言葉の出始めの前に「指さし」を盛んにする時期があるので、これが一つの目安になります。ただし、一度出ていた言葉が、途中から出なくなったりした場合は、早めに相談に行った方がよいでしょう。

子どもの発達にはたくさんの側面があり、しかもその一つ一つの個人差が幅広いため、単純に捉えることができません。発達について不安を少しでも持っているのなら、定期的に見てもらえる医師をぜひ持ってください。その場合、かかりつけの小児科の専門医院がなければ、地区の保健所に尋ねてください。発達を専門としている医師の外来があるはずです。また、近くの総合病院に小児科があれば、小児科の外来の看護婦に聞いてみると、発達を専門としている医師の外来の日を教えてくれるでしょう。乳児検診という外来があれば、そのときに相談なさるのもよいでしょう。

不安を持ちながら子どもを育てることは、とても辛いことです。でも、せっかく得意なところが伸びているのに、不得意なところにばかり気をとられて一緒に成長を喜んであげられないと、お子さんは何を拠り所に成長していけばいいのか分からなくなってしまいます。ご両親の不安を和らげるためにも、よい関係の持てる医師をお子さんの成長を見守るパートナーに加えてほしいと思います。


染色体異常とは遺伝的な病気なのですか。また、どんな症状が出てきますか。

A2. 染色体異常とは

人のからだを作りあげる情報は、細胞の中の染色体にあると言われています。人間は23組46個の染色体を持ち、このうち半分を母親、半分を父親から譲り受けます。

精子と卵子は、それぞれ生まれるときに、46個の染色体を持った細胞が23個の染色体を持った細胞2つに分かれるという過程を通ります。子宮の中で受精した卵は、母親由来の23個の染色体と、父親由来の23個の染色体を合わせて、新しく46個の染色体をまとめ上げ、最初の何度かの分裂を繰り返します。 こうして、新しい人格の芽が作り出されるのですが、ここまでの一連の営みの中で、染色体に集まり方のかたよりやずれが生じたときに、染色体異常という状態が生まれます。これには、染色体の数が46個より多い、あるいは少ない場合や、染色体の一部が重複していたり、欠損している場合などがあります。染色体の一部が不足していると、その部分に書き込まれていた情報が利用できないため、からだの作りに不完全さが生じやすくなります。また、多すぎると、一つのことがらに対して2種類の情報があるため、発達にゆがみが生じやすいのです。

ご両親が健康であれば、お子さんの染色体異常の原因は、遺伝的なものよりは、こうした染色体の離合集散の過程で起きたものであることが多いのですが、できればご両親も染色体検査をお受けになって、次のお子さんにも同じことが起こる可能性があるかどうか、「遺伝外来」を設けている病院で専門医に尋ね、詳しい説明をお受けになることをお勧めします。染色体の一部に小さな異常が見つかった赤ちゃんの場合、親のどちらかが同じタイプの染色体を持っていることがあるのです。ただ、親が特に症状を自覚せず、健康に生活している場合には、一生なにも影響を与えないものである可能性があります。染色体異常の中にはこのように「無害な異常」とでも呼ぶべきものもあることを知っておいてください。

染色体異常の症状には、次のようなものが共通しています。

① 生まれたときの体重が胎内にいた週数の割に小さい。(子宮内発育不全)

② 精神的発達が遅れることがある。

③ からだつきや内臓にいくつかの奇形が生じることがある。

こうした症状には、染色体異常の種類によって、かなりのばらつきがありますが、同じ染色体異常では似たような症状を示すことが多いので、病名がはっきりしたら、どのような合併症に注意したらいいか、主治医に聞いておきましょう。染色体異常についての専門知識を持った医師は少ないので、多少遠くても、遺伝相談を行っている病院とつながりを持っておくことが大切だと思います。

染色体異常のある子どもの場合、胎内で育ちきれず、流産という結果に終わる場合も多いのです。それを乗り越えてこの世に生を受けたお子さんの、強い生命力を信じて、成長と発達を応援してあげてください。


自傷行為やパニックが時々ひどくなり、家庭での対応に苦慮しています。

A3. 自傷行為やパニック

知的障害児や情緒障害児には、自傷、他傷、パニックなどの行動障害が30%くらいの割合で合併します。思春期を過ぎ体格も大きくなると、家族でも抑えられなくなる場合もあります。

行動障害のきっかけは、周囲の雑音などの五感に感じる刺激、休み明けや外泊から戻った直後といった環境の変化、かぜや生理などからだのの不調などが代表的です。自閉症の場合は、人との関係に基づくものが多く、仕事中歌を歌って怒られた、いつもと同じ順番に並んでいなかった、家族が全員揃わなかった、来客があったなどがあげられます。つまり、「変化」に「気持」がついて行けないときに起こりやすいといえます。

具体的な対応の方法としては、まず、家で起こった場合には、危険がないように、場面を替える、逃げるなどを優先してください。無理やり抑えたりするとかえって興奮してしまう場合があります。頻繁に起こしたり、程度がエスカレートしてくるようになったら、ぜひ精神科の主治医を持ってください。緊急避難場所として病院を利用できるようにしておくだけで、家族の心にゆとりができます。家庭だけで抱え込まないでください。初めての場合は、児童相談所や施設の担当者、指導員に相談することをお勧めします。

本人が落ちついたら「なぜ起こってしまったのだろう」と考えてみましょう。そして、一定のきっかけがあるようならば、学校や施設の職員と話をして、似たような場面をできるだけ避ける工夫をしてみてください。

施設や学校で起こった場合は、きちんとその状況を聞くことが大切です。そして何がそうさせたのかを見つけましょう。今後、お子さんがその集団の場へ帰って行くことを前提にし、席替え、場所替え、部署替えなど、工夫をしてみてください。ただし、学校や施設を変えることは慎重にした方がよいでしょう。建物を変えても根本的な解決にはつながらないことが多いからです。

よく本人を知っている主治医への連絡は必ずとってください。もし心あたりがなければ、施設長など長く務めている人に聞いて、小児神経科医や児童精神科医などを紹介してもらいましょう。投薬をする場合は、軽い抗不安剤、精神安定剤などが処方されますが、精神に作用する薬ですから、ご両親が納得したうえで使用する必要があります。そのためにも、話を聞いてくれる主治医をすみやかに見つけることが大切です。

生活のリズムを整えることも重要です。一度、自傷、他傷、パニックなどで興奮し、生活のリズムがとれなくなると、日中の活動も十分にできなくなってしまいます。学校や作業所にも行きにくくなり、ストレスがたまるなどの悪循環が起こる場合もあります。睡眠リズムが崩れたときには、睡眠剤など薬による調整も必要です。

ストレスの発散のために、気分転換の場をつくるのもよいでしょう。適度な運動や外出、音楽鑑賞などをすることをお勧めします。

一時保護制度といって、自宅での介護が不可能な場合、施設や病院に一時的に保護してもらう制度もあります。長期になるとは限りません。本人と家族の間に、一定の時間を置き、再出発を試みる方法にもなると思いますので、利用してみてはいかがでしょうか。

お父さん、お母さんは本人の味方であり、通訳でもあります。周囲とのコミュニケーションのトラブルを上手に解決してあげてください。両親だけでなく、兄弟や親戚、学校や施設の教師、友人のなかによき理解者を見つけましょう。本人の理解者が、できるだけいつもそばにいることにより、本人に「理解されている」という安心感が芽ばえ、それが解決の糸口になると思います。


夜ぐずってなかなか眠りません。逆に昼、眠たそうにしていることが多く生活のリズムが乱れています。

A4. 夜と昼が逆転している

こうしたことが日常的になると、家族も寝不足になり、翌日の仕事に差し支えてしまいます。特にお母さんは、自分が寝不足になるだけでなく、お父さんや兄弟の生活も考えてあげねばならず、ストレスも大変なことでしょう。もちろんお子さんにとっても、睡眠を基礎とした生活リズムは健康の基本ですし、昼の活動のエネルギー源です。

睡眠のリズムは、年齢とともに変化することが知られています。もちろん個人差もあり、日によっての違いもあります。家族全体が夜型で、それが生活パターンになっているのなら、あまり問題がありません。お子さんが幼稚園や保育園に入るころには、一般の生活パターンに変えられればよいでしょう。

問題になるのは、お子さんの生活リズムが不規則で、家族の生活に影響を与えるほどになっている場合です。よく見られる原因には次のようなことがあります。

① お子さんの昼間の生活が単調で、あまり遊べていない。

② 何度も昼寝をしたり、長くさせていたりする。

③ お子さんが寝てから、大好きなお父さんが帰って来るので、つい起こして遊んでしまう。

④ 夜中に起きた場合、遊んだり、飲み食いさせている。

⑤ 何らかの理由で、脳の睡眠リズムそのものが、まだ未熟であったり、変動しやすい。

 

 

生活リズムを記録してみましょう

睡眠を中心として、食事や排泄や遊びや家族の動きも含めた生活リズムを、とりあえず1週間チェックしてみましょう。いろいろな原因が見えてきます。便秘が原因で眠れないこともあります。

 

 

悪循環を断ち切ろう!

夜の眠りが浅いと、どうしても昼間はボーッとします。ゴロゴロしている姿を見かねて、ついお母さんも眠らせてあげたくなります。お母さんも睡眠不足なので、ほんの一時休みたくなります。でもここで寝かせると、また夜寝なくなって、悪循環になります。きっぱり断ち切ることが必要です。朝は7時なら7時、8時なら8時というように、いつも決まった時間に起こしましょう。午前中の眠そうになる時間帯には、外に連れ出し、砂遊びや水遊びや公園のプランコなどで遊ばせましょう。散歩がてら買い物に行くのもよいでしょう。行き帰りのバギーで寝そうになったら、バギーを傾けたり、揺すったり、走ったり止めたりして、何が何でも午前中は寝かさないつもりでがんばりましょう。午後の昼寝は、2時間以内で起します。午前中にどうしても寝るようなら1時間ぐらいで心を鬼にして起します。夜もお風呂にいれたりして、8時頃までは起しておきましょう。また10時過ぎに帰って来たお父さんは、子どもと遊んであげるのを控えましょう。これを1〜2カ月、実行してみてください。

 

 

昼間を活動的に!

子どもが目覚めやすい、心身が生き生きしてくるような遊びをします。

 

○からだ全身を揺さぶるあそび

高い高い。でんぐり返し。ブランコ。重ねた布団に放り投げる。

○水遊び

最も喜ぶのは水遊びでしょう。遊び方はお子さんに合わせていろいろ考えてあげましょう。10分もすると、生き生きしてきます。外がだめなら台所の流しでもお手伝い風の遊びや、季節によってはお風呂の残り湯で遊ばせましょう。夏はもちろんプールです。保育園では、冬でも水遊びを楽しんでいる場合が多いようです。雪国ならもちろん雪遊びをしています。 「風邪をひくから」「寒いから」は大人の感覚です。寒くない服装で、濡れたら小まめに着替えさせればよいのです。

○くすぐり遊び

お母さんとスキンシップをして遊びましょう。歌にあわせてくすぐったり、だきしめたり、追いかけっこをしたりします。

 

食後や、お子さんがつまらなくなりかけた時間を見計らって、このような遊びを15分か30分ずつやらせてあげます。元気が出てきたら、しばらく好きにさせてあげます。しばらくして眠そうになってきたら、また遊んであげてください。もしかしたらお子さんの方から、遊んでほしいと要求してくるかもしれません。

 

 

どうしてもだめなら

どうやっても生活リズム、特に睡眠のリズムが不安定で、家族の生活を妨げるようなら、医師に相談しましょう。脳波の異常や未熟があったり、情緒のコントロールがうまくできないのかもしれません。ふさわしい薬があるかも知れませんので、ぜひ相談してみてください。 風邪の場合にはほとんど直っていても薬を飲ませるのに、このような場合に薬を飲ませるのをためらわれるお母さんが多いようです。風邪は大事にしていればすぐ直ります。しかし、いろいろ手を尽くしても難しい睡眠のリズムだからこそ、薬でまず体調を整えて、よい生活リズムを形成してみることもひとつの方法であることを知っておいていただきたいと思います。


手伝っていると自分でやろうとしません。 どこまで介助してあげればよいのでしょうか。

A5. どこまで手伝ってあげればよいのか

甘やかしてはいけないと思っていても、つい手を出してしまうというのは、無理のないことです。しかし、子どもの要求を、親が先取りしてやってあげるだけでは、自主性、主体性が発達しなくなってしまいます。子どもの自立には、できるだけ不要な干渉をしないことが大切です。たとえわずかなことでも、お子さんができることには、手を出さないで待ちましょう。そして、できそうでできないところには、ご両親が優しく、そして賢く手をさしのべて励ましましょう。

なかなか自分から何かをしようとしない子どもは、一つのことができるようになるのにも時間がかかります。無理をせず、根気強くお子さんに接していってください。そして、だんだんできることが増えてくるにつれ、ご両親の心にも余裕が生まれ、お子さんの新鮮な一面や個性がみえるようになります。

親が過剰に手を出したり、叱ったりしてやらせようとすると、子どもは混乱してどうしてよいかわからなくなります。他人に迷惑をかけたり、きわめて危険な行動でなければ見守ってあげましょう。どんなに小さくても、子どもが自分でできたよい行いは、オーバーなくらいにほめることが大切です。自分にとって大切な人から認められるということは、大きな励みになるはずです。

子どものできないことにばかり目が奪われ、できることがみえなくなってしまわないように、自信と希望を持って子どもを見つめ、「のんき、げんき、こんき」でもって、少しでもできることを見つけ、自立心を伸ばしていってあげたいものです。


子どもの機嫌が悪かったり、反応に乏しかったりするためどうかかわってよいのかわかりません。

A6. 機嫌が悪い子にどうかかわるか

どう手を尽くしても不機嫌が直らないときには、不憫さを通り越して、お母さん自身がすべてを投げ出したくなるのではと思います。大人も日によって、気分の波がありますが、いらいらしていても、原因が分かるし、自分で気を取り直す方法を知っています。子どもの場合には、大人が原因を推し量って、気分を切り替えてあげなければなりません。しかし、しばしばお母さんのほうも、お子さんの不機嫌のとばっちりを受けていらいらしたり、焦ったりして、冷静に対処することができません。ますますお子さんは機嫌を損ね、立ち直れなくなります。ここはお母さんが我慢するしかありません。

 

なぜ不機嫌なのでしょう。

① 姿勢が変化させられず、苦しい。

② 体調が悪い。(微熱、便秘、寝不足、腹痛)

③ おなかが空いたか、喉が渇いている。

④ 嫌いな感覚や音がある。

⑤ やりたいことがあるのに、できない、伝えられない。

⑥ 本人なりの特有の手順があるのに、分かってもらえない。(やめさせられた。勝手に片付けられた。)

⑦ エネルギーがあるのに、遊び方が分からず発散できない。

⑧ 気分(情緒)そのものが不安定。

⑨ てんかんがある。

いろんな原因が考えられます。⑤〜⑨は、わかってすぐに対処しようにも、一度崩れた気分をなかなか切り替えられないので、結局不機嫌なままで時を待つことになりがちです。大切なのは、不機嫌になる前に手を打つことです。

 

機嫌がよいのはどんなとき?

一日中不機嫌といっても、冷静に振り返れば、機嫌のよいときや、立ち直ったときがあるはずです。

① 食事の後。

② 好きな遊びに熱中しているとき。

③ 情緒が安定する特定のものを、持っているとき。

④ 車に乗せられたとき。

⑤ 外に出るとき。

⑥ 身体を揺さぶる遊びをしているとき。

⑦ 自分で納得して遊びを変えたとき。

⑧ 思いっきり場面を切り替えたとき。

機嫌のよい時間を少しでも増やすことが大切です。また立ち直ったきっかけを覚えておき、有効に使うことです。

 

根気よく付き合う

楽しめる遊びの種類を増やすことも大切です。気持ちを転換させる切り札を見つける努力も必要です。あるお子さんは、布団を敷いて自分の場所を作ってあげると、落ち着き、そこを基地にして機嫌良く遊び始めました。この方法を見つけるまでに1年以上かかりました。

時には薬が有効なときもあると思います。医師に相談してみましょう。

このようなお子さんには、お母さんの欲求を一時的に我慢して、覚悟をきめて、気長に、じっくり付き合うことが一番のように思います。場合によっては2〜3年かけて、お子さんの成長を待つことも必要です。


筋の緊張が弱かったり、強すぎたりしてだっこが上手く出来ません。どのように関わってあげたらよいでしょうか。

A7. 上手にだっこできない

だっこするとき、母親は本能的に左側にだくことが多いそうです。子どもは子宮の中で、つねに大動脈を通って羊水に伝わる母親の心臓の音を聴いていて、出生後も同じような音を聴くと、子宮の中での快適な状態の体験を蘇らせて、安心すると言われています。

だっこは子どもに安心感を与え、リラックスさせる行為ですから、乳児期の精神的つながりが大切な時期には、胸と胸を合わせてだく「コアラだっこ」がよいと思います。乳児の前面が保護されているため、安心感や安定感が得られるからです。また、目と目を合わせたり、話しかけたりすることで、母と子の愛着行動が生まれ、望ましい関係(母子相互作用、母子共感)が形成されるという点でも、とても大切なことなのです。

 

筋緊張が低く体が柔らかい感じの子ども

まず、頭がぐらつかないようにすることが大切です。首が座っていないと、手足が頭の動きに影響を受け、びっくりしたように両手をバンザイしてしまうなど、本人の意思とは無関係の動きを示すことがあります。これではリラックスできないどころか、目と目を合わせて母と子の楽しい時間を過ごすこともむずかしくなります。そこで、手や背筋をうまく働かせられるように、肩の上にだっこしたり、子どものわきの下から胸部をささえるように子どもをだきます。

 

筋緊張が強く体がつっぱった感じの子ども

多くの場合、腕を曲げ、両肩に力を入れて、首を亀のように引き込んだ形をとって、反り返ってしまいます。脚はつっぱって伸ばし、左右の脚がたがいに圧迫し合い、内側へ力を入れがちになります。しかし、反り返るからといって、逆にからだを曲げようとすれば、反発してなおさら力を入れてしまいます。このような時はまず、両肩を下げて、首が自由に動かせるようにしてあげましょう。リラックスして力が抜けてきたら、両下肢を股関節から曲げ、股を開くようにして、両脚を離してあげましょう。だんだんだっこになれて、子どももしっかりしてきたら、母親の胸から少し離したり、支えている母親の両腕を子どもの背中、お尻、太股の方へと少しずつ下げていくといいでしょう。重力に対抗する首や体幹の力や、バランス感覚を身につけられるように、また、子ども自身が最もリラックスできる両脚の姿勢を自分で見つけられるように、母親の腰のまわりで動けるようにしてあげるとよいと思います。

 

だっこによって、子どもは母親の愛情を感じ、心にやすらぎを得るのです。お母さんも、お子さんの体重が増えていくことを実感しながら、ご自身がお子さんの社会性の発達などによい影響を与えているのだということを感じとってください。


椅子やバギーに上手に座れません。どうしたらよいのでしょう。

A8. 椅子にうまく座れない

マヒや運動発達に遅れのある子どもの場合、姿勢や動作に特徴があり、それがイスやバギーにうまく座れない原因のひとつとなりますので、これらの動きを極力少なくする工夫が大切でしょう。そのためには姿勢をコントロールすることが重要になります。子どものタイプ別に座位の姿勢保持について説明し、イスやバギーのチェックポイントを述べますので、お子さんの姿勢や動作を観察し、あてはまるタイプを見つけてください。

 

力がはいりっぱなしで、からだをこわばらせたりつっぱらせる場合

このタイプは、頭を後ろに反らせたり、一方に顔を向け続ける、からだを前に倒して股関節の内側をくっつけて固くしている、つっぱりが強く両足が交差してしまう、といった反応がみられます。このため、背もたれが柔らかすぎると、深く腰をかけることができずに反り返ったままであったり、背中が丸くなり、逆に頭があげにくくなることもあります。そのような時は、足の交差がおきないように股の間にパッドをおくことが有効です。また、適切な足台の高さにすることもポイントです。足を置く高さが高すぎると、股関節が曲がってしまい、子どもは足を押しつけて頭や身体を反らすので、腰がずり落ちてきます。逆に低すぎれば足の重みで自然と膝が伸びて股関節も下方に引っ張られ、からだが後ろに倒れやすくなるからです。

 

力を入れたり抜いたりするのが苦手で、無意識のうちに突然からだが動いてしまったり、頭や手足をじっと止めておくことが難しい場合
このタイプも全身が反り返りやすく、両肩が後ろに引かれてしまうので、手が前に伸ばしにくくなって、頭や足を伸ばしてしまい、手足の揺れが大きくなります。このタイプは、逆に背もたれが固すぎると、それが強い刺激となってこうした反応が強調されてしまいます。クッションなどで適度な柔らかさを与えるとよいでしょう。シートや座面は、股関節が伸びてしまうのを抑えるため、前を後ろよりもやや高くしておくとよいでしょう。

 

力が入らずにぐにゃぐにゃした印象で、だっこするとき肩や腰が安定してくれないような場合
このタイプは、前方に倒れやすくても、骨盤から胸にかけて固定すると自らの力で頭を安定できるようになります。ただし、シートの幅が広すぎたり肘掛けが低すぎると、からだが一方に傾き、バランスをとりにくくなります。背もたれが柔らかすぎると、背中が丸くなって頭を上げにくいうえ、手を前に出す動作もしにくくなります。できるだけ体にフィットしたイスを利用するのがコツです。

 

さらに、すべてに共通する座位姿勢の基本は、

①頭が反り返らないようにする

②身体が一方に傾かないようにする

③股関節を十分に曲げて前方にかがみやすくする(股関節を外旋して開く)

④肩も前に出し、できれば手が自由につかえるようにする

という点です。

体の各部分にバンドやパッド(タオルや枕でも可)を当てたり、ひじ掛けの高さ、背もたれと座面の固さ、形、頭の保持、足を置く高さなどに十分注意しましょう。

 

最後に、座る目的別に、座位姿勢を安定させるための方法をご紹介します。

まず食事では、口まで食べ物を運ぶ、口の中に入れる、噛む、飲み込むといった一連の動作を行う際、好ましくない反応を減らして安定した姿勢を保持するために、コップやスプーンなどを工夫したり、「上手に食べる練習」の項目で説明したような食べさせ方をするのも効果的です。

遊びの場合は、おもちゃを置く机の高さがポイントです。高すぎると頭が反り返ってしまうので注意してください。バギーに乗せる場合は、移動が目的ですので振動などの安全面も無視できません。ベルトの位置や種類に注意して下さい。

 

椅子にしてもバギーにしても、強い反り返りなどの反応が見られた状態のままで、座る姿勢に移行することは困難です。座らせる前には、頭を軽く前に曲げたり、股関節を曲げたりして、反り返ったからだを柔らかくしてあげましょう。

抱き上げるときは、介助者が高い姿勢で手を差し出すと、子どもは見上げる形になり、好ましくない反応が出やすくなりますので注意してください。子どもの目線に合わせた低い位置からのアプローチをすることで、介助者の腰痛防止にもなります。

まったく上手に座れない子どもの場合は、それ以上の運動の制限、変形などの予防のためにも、医師や理学療法士、作業療法士、リハビリテーション工学の専門家などと相談をして、その子のからだや動きにあった座位保持装置をお作りになることをお勧めします。


障害を持った子の権利とその擁護について教えてください

1989年に「子どもの権利条約」が、国際連合で採択され、日本では、1994年に批准、発効しました。この条約は世界中のすべての子どもたちが、ひとりひとり大切な人間として子どもらしくいきいきと生活ができるように定められました。

いくつか紹介してみます。

① どんな差別もいけません。(差別の禁止)

② 子どもに一番いいことをしてください。(子どもの最善の利益)

③ 子供のためになる親の指導は尊重されます。(親その他の者の指導)

④ いのちが一番大切です。(生命への権利、生存と発達の確保)

⑤ 自分の意見を自由に言えます。(意見表明権)

⑥ 秘密はまもられます。(プライバシー・通信・名誉の保護)

⑦ 子どもに暴力をふるってはいけません。(親による虐待・放任・搾取からの保護)

⑧ 障害があっても権利は同じです。(障害児の権利)

⑨ 健康な毎日を過ごし、良い医療を受けることができます。(健康と保健サービス)

⑩ 誰でも学べ、人間らしい豊かな発達を求めることができます。(教育権)

⑪ もっとゆとりと、遊びと、文化と、芸術を求めることができます。(余暇、遊び及び文化的活動)

 

1975年12月9日、国連総会で出された「障害者権利宣言」には、自己決定権の尊重と社会参加の理念が盛り込まれています。1994年に発表された神奈川県知的障害者施設協会の「あおぞら宣言」に「わたしは一人のひと あなたも一人のひと この世界に 同じ時を生きている一人とひとどうし・・・わたしと あなたは おなじ 手をとりあって 歩いて いこう」という考えが表明され、障害者の権利擁護、施設職員の倫理綱領などを含め、「当たり前の暮らし」の実現が唱われています。

とは言え、障害をもつ子どもの人権やプライバシー保護の問題は、いまだに見過ごされがちです。子どもは、親や兄弟など身近な家族に保護と援助を依存しています。学校教師や施設職員を含め、援助者の対応のしかたによっては、援助する側の権利侵害が起こる場合もあります。子どもの目線に立って、尊重し、援助し、擁護し、代弁してあげることが大切なことと思われます。

以下に「子どもの権利条約・創作コンテスト」(アムネスティ・インターナショナル日本支部実施)の最優秀作品及び優秀作品より条約の一部を紹介します。

 

前文より(小口尚子、福岡鮎美訳・作)

家族って、大事だよ。

お父さん、お母さん、世話をしてくれる人がいて、

兄ちゃんや姉ちゃん、弟や妹がいるところもあるし、

じーちゃんやばーちゃん、ひーじーちゃん、ひーばーちゃん、

おじさん、おばさんもいっしょのところもあるだろう。

そして、僕らがいる。

家族って、そんなものだよね。

それで、みんなでよろこんだりかなしんだり、たのしんだりおこったりする。

やっぱり大事だよ、家族は。

だって、ひとがいっぱい集まって「社会」はできているんだけど、

それをどんどん小さく分けていったら、

「人が何人」になる一つ前の集まりって、家族じゃない?

一番単純だけど、とっても大事な人の集まり。

ついでに、いっしょに楽しんだり、時々おこられたりするけど、

僕ら子どもを育ててくれる、一番身近な人の集まりって、家族だよ。

家族は、大事だ。

だから、「家族」も、もしそういう事がいるなら、いろんなものから護ったり、たすけてもらったり、

していいんだ。

その家族の中で、幸せで、好きに、大事に思われて(甘やかすこととは違うからね)

自分のことをいろいろわかってもらえて、

はじめて僕らは、たとえばドミソの和音のようにバランスのとれた、

今年もたくさんの麦ができた畑のように豊かな、

そんな心をもつ大人に育つことができる。

(家族ってすごいや)

 

第2条より(小口尚子、福岡鮎美訳・作)

僕ら子どもや、そのお父さん、お母さん(あるいはそのかわりの人)が、

どんな髪でもどんな目でもどんな顔でも、

どんな肌のいろでもどんな体でも、男でも女でも、

どんな言葉をしゃべってもどんな神様を信じても、

どんな考え方をしても、どんな国どんな家に生まれても、金持ちでも貧しくても、

体のどこかが不自由でも、心がうまくはたらかなくても、

みーんなおんなじように、

このきまりの中にでてくる「やっていいこと」「してもらえること」がある。

子どもの「やっていいこと」「してもらえること」を大事に思って、それがいつでもできるようにするのが

大人の役目。

 

第23条より(渡辺良子、明子、由美子訳・作)

① 国は、こころやからだに障害のある子どもが、人として尊ばれ、自分をもっと信じて自分の力で生きていけるような、どんどん積極的に世の中に出て行き社会に参加できるような、そういう条件が整い、人生を充分に楽しみ、りっぱな生活をすべきだと認めます。

② 国は、障害のある子どもが、特別の世話を受ける権利を認めます。そして障害のある子どもやその子の世話をする人たちが、手伝ってほしい、と言った時に、国にできることがあるなら、その子どもや両親や世話をしている人の状態にふさわしい手助けをすると約束します。そして、みんなにもそうするようにはげましたり援助したりします。

③ 障害のある子どもは、他の人が困らないことでも特別に不便に思うことがあるわけですから、㈪で言ったような手助けをする場合は、その子の両親や世話をしている人たちの経済的な力のことを考えて、できるだけただでするようにします。
そして、そういう手助けは形だけのものではなく、障害を持っている子どもが、本当に、教育やトレーニングを受けたり、こころやからだの健康管理やリハビリテーションのサービスを受けたり、仕事につくための準備をしたり、楽しいことをするチャンスを利用できるそういうものにします。また、その子が世の中で差別されずに、できるだけ広い範囲でみんなと一緒にやっていけるような、ひとりの人間として、考え方や生活のしかたも、たましいも、もっと成長できるような、そういう手助けのしかたをします。

④ 条約をむすんだ国は、他の国と力を合わせて、障害のある子どもが病気にならないようにする方法や、医学や心理学やからだの働きの面からの治療について必要な情報をもっと知らせ合うようにします。リハビリテーションや教育の方法、仕事につくためのサービスについても、分かったことを他の国に知らせたり教えてもらったりします。そういうことについて、国ができることをふやしたり、技術をもっと良くすることを目ざします。そして、開発途上国が困っている点、必要としている点については、とくに良く考えるようにします。


えがわ療育クリニック

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